大淀病院事件の判決文の指摘 ―忘れてならない事―
事件をお忘れの医師はおられないと思います。一方で自治体にとっては、過去の事件になってはいないか?と思い大淀病院事件の判決を参考に記述します。
もっと早期に搬送されていれば救命されたのではないかという原告Aらの気持ちは十二分に理解できる。1分でも1秒でも早く治療をしてもらいたいのに、何もすることなく、3時間待たされ続けたわけである。その待っていた時間がいかに長いものであっただろうか――。「最後に、当裁判所として、産科を始めとする救急医療について付言しておきたい」
現状では「救急医療」とは名ばかりである。背景があるのかもしれない。しかし、人の命は最も基本的な根源をなす保護の対象であり、それを守ることは国や地方公共団体に課された義務であって、経済的効率性の観点から判断してよいものとは思われない。厚生労働省から平成21年3月に「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する報告書?周産期救急医療における「安心」と「安全」の確保に向けて?」が発表され、産科の救急体制の整備が進められている。社会の最も基本的なセイフティネットである救急医療の整備・確保は、国や地方自治体の最も基本的な責務であると信じる。
本件で忘れてはならない問題がもう一つある。いわゆる1人医長の問題である。平成20年に、当直体制をとっている産婦人科の勤務医は月間平均で295時間在院している。こうした医療体制をそのままにすることは、勤務医の立場からはもちろんのこと、過労な状態になった医師が提供する医療を受けることになる患者の立場からしても許されないことである。近時、このような状況改善の目的もあって、医師数が増加されることになったが、新たな医学生が臨床現場で活躍するまでにはまだ相当な年月を要するところであり、それまでにも必要な措置を講じる必要があるものと思う。
近年女性の結婚年齢や出産年齢が上がり、相対的に出産の危険性が高まることになる。より安心して出産できる社会が実現するような体制作りが求められている。
産科等の救急医療体制が充実し、1人でも多くの人の命が助けられることを切に望む。
2010年3月1日
大阪地方裁判所第17民事部
裁判長裁判官 大島眞一
以来12年経過し、国内では施設の集約や医師の働き方改革への努力が急ピッチで進められている。各自治体も、この基本的責務と指摘された事を忘れてはならない。