危うい医薬品安全保障 ―医薬品製造拠点を国内に!―
グローバリズムという理想論のもとに、過去数十年間、製造業のみならず農業や医薬品業界までも「世界は一つ」と、おとぎ話のような行動をとってきた。出所の分からない理想ばかりを追いかけていると、現実の世界ではしばしば大きなしっぺ返しをくらうことになる。
製造業の分野では、好みの新車を注文しても、半導体の生産が間に合わず「3か月から半年待ち」、そのためか最近では中古車市場が賑わっているらしい。家を新築しても、ボイラーやエアコンの納入が、これも半導体不足のため納入されず、入居できるのがいつになるかわからない。さらに、カロリーベース総合食品自給率は、令和3年度で38%まで低下している。新型コロナウイルスの大流行によって、マスクや防護服などの自給率の低さにも驚かされたばかりだが、今度は医療の現場では欠かすことのできない医薬品までも欠品寸前のところまで来ているらしい。
医薬品の製造過程は、①Starting material(出発物質)と呼ばれる化学物質を製造し、②それを様々な工程を通して合成して中間体や原薬を造り、③製剤化して製品となって市場に出てくる。2021年の時点では①の工程は、中国が48.9%と最も多く、韓国が15.5%、インドが14.8%、イタリアが11.8%であった。②の工程では中国が23.5%、韓国が22.3%、イタリアが13.2%、インドが11.5%であった。出発物質の90%以上また原薬の70%以上が海外で製造されており、我が国の医薬品のほとんどが海外で生産されていることが分かる。
中国のゼロコロナ政策による経済活動の停滞やロシアのウクライナ侵略によるエネルギー価格の高騰など、今後の世界情勢はますます不安定な状況が予想される。
「物造り日本の精神」を取り戻し、医薬品はもとより、様々なものの生産拠点を国内に回帰させることが、この国の安全保障上の最重要課題である。