病理検査・画像検査依頼医の品格 ―報告書は医療安全の火薬庫―
令和4年度の診療報酬改定に「画像診断情報等の適切な管理による医療安全対策に係る評価」が新設されました。画像診断医の作成した 画像診断報告書又は病理診断医の作成した病理診断報告書(以下「レポート」)の確認不足に対する注意喚起を図ることに加え、レポートの確認不足を防止するための組織的対応について診療報酬が支払われるというものです。その報酬はなんと7点。この小さな値はやるべきことを怠る医師への警鐘かも知れません。事実、レポートを担当医が無視したため、適切な対応が取られずに治療が遅れた事案が報道されています。身近なところでは2016年に名古屋大学附属病院が公表したレポート所見が共有されなかったことから肺癌の診断・治療が3年遅れた事例の調査報告です。翌年には東京慈恵会医科大学附属病院でレポートの重要情報が共有されずに1年間放置された事例が発覚し、つづいて千葉大学附属病院からもレポートの確認不足により診断が遅れた9事例が公表されました。報道されたものは氷山の一角でしょう。これらを受けて2017年に厚労省から「画像診断報告書等の確認不足に関する医療安全対策について」という事務連絡が出ていますがなかなか改善策が広がらなかったようです。病理レポートについてはもっと早く2012年に日本医療機能評価機構医療事故防止事業部から「病理診断報告書の確認忘れ」という医療安全情報が出されていましたがこれがどれだけの医療人に響いたか想像に難くはありません。
これらの多くは、まずオーダーした医師がレポートそのものを読まないか、見ただけで済ませていることに起因しています。レポートの未読や未確認をなくすような組織体制づくりは是ですが、まずはオーダーした医師が全責任をもってレポート内容を常に確認し、偶然に見つかった重要所見について行動を起こすことが第一です。最近の電子カルテでは各自の未読・未確認レポートの一覧を容易に表示する機能が備わっており、毎日の始業時や終業時にそれを確認することでたとえ再診していない患者のレポートも確認することができます。確認作業の責任所在を明確にしておくことが大切で、チーム制と言っていると責任の所在が不明瞭になりかねません。やはりオーダーした医師が全責任をもって確認し、他科疾患の重要所見があれば他科診察を促す方策を口頭ではなく文書をもって行なうことが基本だと考えます。これはクリニックの医師が病院に画像検査を依頼した時にも言えることです。病院から画像レポートが届きますが、その確認はやはりオーダーしたクリニックの医師の責任です。
レポートという医療安全の火薬庫は閉じたままでは爆発します。毎回開けて信管を取り出すことが安全への第一歩です。