ヒポクラテスの誓いからジュネーブ宣言へ―医師の活動は患者と社会への奉仕―
医師の職業倫理に言及した約2500年前の「ヒポクラテスの誓い」には、すでに医師の活動が奉仕であることを示唆する「医術の伝授に報酬をとらない。全ては患者の利益になることを考える。」といった文言がみられます。
時代が下がって江戸時代の緒方洪庵の「扶氏医戒之略」には「人のために生活して、自分のために生活しないことが医業の本当の姿である。」と記されています。また、1948年にWMA(世界医師会)の総会で採択され、2017年に改訂された「ジュネーブ宣言」においては、冒頭で「医師の一人として、私は、人類への奉仕に自分の人生を捧げることを厳粛に誓う。」と宣言しています。
このように我らが医師の先達は、2500年以上にわたり医師として活動する際に自分の利益を顧みずに患者と社会の利益を追求する奉仕の姿勢を受け継いで来ました。その理由は、先達がこのような姿勢をもって真摯に医療活動することが、医師が患者や社会から信任を得る上で極めて大切であるということを肌で感じて来たからではないでしょうか。
医師の働き方改革により、研修医・勤務医は労働基準法上の労働者と定義され、医師が自分自身の時間給や労働時間に真剣に向き合わざるを得ない時代になりました。これには、筆者同様、そこはかとない違和感を覚える先生方も少なからず存在すると拝察します。しかし、法治国家である我が国において医師に対する給与が発生する以上、これは致し方がないことと割り切るべきなのでしょう。それよりも我々医師が決して忘れてはならないことは、どんな時代が到来しようとも、医師として活動する際の奉仕の姿勢の大切さを後進に受け継いでいくことではないでしょうか。