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宗教的信念に基づく輸血拒否への対応 ―臨床倫理の難題―


 無輸血治療を求める患者さんに対して、他施設への転院を勧める場面は少なくありません。しかし、それは問題の回避であり、根本的な解決にはなりません。無輸血を望む患者さんも高齢化し、治療を必要とする病状に直面することが増えてきています。これは医療者にとって避けられない倫理的課題です。
①医療者の視点
 医療者にとって、患者の生命を守ることが最も大切な使命です。特に、手術や大量出血時には輸血が命を救う重要な手段となります。しかし、信仰に基づき輸血を拒否する患者に対しては、単に輸血を強制するのではなく、無輸血治療の選択肢を探ることが求められます。その際、事前に十分な説明を行い、患者との信頼関係を築くことが大切です。とはいえ、出血が命に関わる深刻な状況に発展した場合、医療者としての職責を果たすためには、救命を優先せざるを得ないという現実があります。このため、相対的無輸血の方針を採用し、緊急時には輸血を行うことを前提とする病院が多いです。医療者は患者の信仰を尊重しつつも、最終的には命を守るための最善の手段を確保しようと努めています。重要なのは、患者と医療者の間で相互理解を深め、折り合いを見つけることです。

②無輸血を求める患者の視点
 一方で、患者にとって宗教的信条は、命そのものよりも重い価値を持っています。輸血を受けることは、彼らにとって神の意志に反する行為であり、絶対に避けるべきものであるとされています。たとえ命に危険が及んでも、信仰に基づいて輸血を拒否するという強い決意があります。これにより、患者は信仰と生命の間で深い葛藤に直面することになります。患者は命を救うための無輸血手術や代替治療法に強く期待しています。医療者と協力して、信仰を守りながらも安全に治療を受けるための道を模索し続けています。
 このようなケースでは、臨床倫理の話し合いを個別に行い、相互理解を深めた上でのインフォームドコンセントが不可欠です。しかし、それは決して容易なことではありません。この課題にどう向き合うべきか、医療現場に関わる全ての人々と共に考えていく必要があります。