殺虫剤・ネオニコチノイド―子どもの発達障害の原因か?―
稲穂が頭を垂れる頃の青空に、無数の赤トンボが群れ飛ぶ風景を思い出してください。近年、このような風景がほとんど見られなくなり、数えられる程度しか見なくなってはいないでしょうか。
1990年代に急速に普及したネオニコチノイドという殺虫剤は、稲作農家では田植え前の育苗箱処理剤として普及しました。本来の目的はカメムシやウンカへの対策でしたが、稲刈り後の土壌中に残存して水中生物やミツバチなどにも害を及ぼすことがわかってきました。赤トンボは稲刈り後の田んぼの水たまりに産卵し卵のまま越冬、そして春の水田でヤゴとなりミジンコなどの小さな水生生物を捕獲しながら大きくなりますが、ネオニコチノイドはヤゴが初夏に羽化をしてトンボになるところを阻害するようです。赤トンボが群れ飛ぶ風景が見られなくなったのはそのためのようです。
文部科学省の資料では、近年自閉症や学習障害、注意欠如多動性障害などの発達障害児の増加が著しいと報告されています。それによれば、その障害に応じた教育を受けるシステムを利用している小中学生の数は、最近の10年間に2倍以上に増加しています。
母体経由で低用量のネオニコチノイドに暴露されたマウスに不安・攻撃・性行動異常がみられ、また発達期のマウスに投与されると海馬領域の脳神経細胞の減少が見られたとする報告が多数存在します。
欧州食品安全機関は様々な研究結果を受けて、ネオニコチノイドに発達神経毒性の可能性があるとして、2013年に一日当たりの許容摂取量の基準を厳しくするよう勧告しました。日本国内でも同様の流れが進められることになり、2040年までにそれに代わる新たな殺虫剤を開発することが掲げられています。